安倍政権が非正規雇用の賃金上昇を実現するために

安倍政権において賃金引き上げが重要な政策課題となっている。

ここで忘れてはならないのは、雇用の3分の1が派遣などのいわゆる非正規雇用となっていることである。それらの非正規雇用における賃金引上げについても実効性のある政策が導入されない限り、賃金の引き上げの政策は絵に描いた餅に終わるだろう。

なぜなら正規雇用の賃金引上げが行われても、そのしわ寄せが非正規雇用にいくからだ。

とは言っても、非正規雇用も含めて無理やり賃金を引き上げるのであれば、当然ながら日本企業のコスト競争力をひきさげてしまい、競争力が失われてしまう。

ではどうすればよいのであろうか?

派遣発注元と派遣会社がパートナーとなり、派遣社員などが「やる気」を出す仕組みをつくっていき、派遣会社が派遣発注元の企業価値創造に貢献するような働き手となり、より多くの売上、高品質のサービスを提供することで、正規、非正規問わず労働者に配分するパイを拡大していくしかない。

やる気を引き出すことで人は想像以上のパフォーマンスを発揮する。

しかし、現実は派遣発注元は、派遣社員を単なるコスト削減の手段としてしか考えていない企業が多く、重要な労働者としていかに「やる気」を引き出すのか、などという発想を持つ企業は非常にすくない。

このような態度を持つ企業が多いのでは、いくら安倍政権が賃金引き上げを訴えても非正規雇用は置いてけぼりになるだけである。

そこで提案であるが、ある程度の規模の派遣社員を利用する企業は、派遣会社と共同で、派遣社員を戦力化し、企業戦略に貢献させ、その結果として売上を伸ばし、賃上げ余力拡大し、派遣社員に対しても単価上昇を目指していくような人事計画の作成を義務付けてはどうであろうか?なかなか数値かすることは困難であろうが、少なくとも、考え方ぐらいの提出を義務付けてはどうであろうか?

もちろん、そもそも派遣会社が雇用主体なので、作成主体は派遣会社にして、その作成に対して派遣発注元が支援するという形にすれば、発注元の負担が減るので受け入れやすくなるだろう。

わたくし自身も仕事上いくつかの人材ビジネスを見てきたが、そもそも派遣社員などの非正規雇用労働者を戦力化している企業は何も他人から指摘されなくても、そのような計画を作成し実行している。またアウトソーシングとして製造請負企業を戦力化している企業にも同様の傾向がある。

そうした企業では、働く派遣社員がチームの一員として見なされ、発注元の戦略に関する情報開示も多く、離職率も低く、キャリアアップの可能性もあり、総じて派遣単価も高くなる。 企業も成長し高い生産性、高い付加価値商品をつくることができ、派遣会社、派遣社員、発注元の3社がすべてWIN-WINとなる。(もちろん、そもそもの企業戦略が素晴らしいというのが前提である。非正規雇用の戦力化に成功することはあくまで手段であり、企業戦略自体に問題があれば意味がないのは当然である、、、、)

企業すべての資源を内部化することは不可能である。内部経営資源と外部経営資源をいかに戦略に貢献させるかが企業経営の根幹であるので、派遣社員などの非正規雇用をやる気を引き出すことを重要視することは、実は当たり前のことである。派遣社員は派遣会社の社員だから、そんなことは派遣会社に任せればよいというのは間違いであえる。働いている職場のある発注元が派遣会社に協力しなければ、派遣社員のやる気を引き出すことは非常に困難であることは自明であろう。当たり前のことができてない企業が多すぎるのが現実である。

そうした当たり前のことができない会社はえてして派遣社員やその他の非正規雇用労働者を単なるコスト削減の対象としてしかみず、派遣社員が疎外感をもち、離職率が高くなり、結局労働パフォーマンスが低下し、さらなるコスト削減への圧力が高まるという悪循環に陥る。

景気変動や事業環境の変動がますます大きくなっている現状では固定費を抑制すために、人的経営資源の内部化は企業にどうしても必要な人材に絞られる傾向があり、人材のアウトソーシングの流は今後ますます増大するであろう。そうした中でコスト削減としてのみ人材のアウトソーシングを見ていない企業の競争力が確実に低下していくだろう。

コスト削減は非常に重要な経営テーマであるが、企業経営の成功のための数ある手段の一つにしか過ぎない。コスト削減だけをことさら重視した姿勢だけで派遣社員を利用するという発想では、派遣社員から人をものとして扱わないひどい企業だと思われるだけである。もういい加減派遣社員をコスト削減の対象としてしか見ない狭い発想の企業経営から脱却しようではないか?

民間に任せても残念ながら、その動きが広まらないのであれば、政策の出番を期待したい。

今後、五輪誘致、高齢化などを背景に、特に飲食やホテル、介護などのサービス産業において雇用が増大すると予想される。そうしたサービス業においては、特に非正規労働の割合が多く、総じて賃金水準が低い。これらの産業で、非正規労働雇用者のやる気を引き出して、企業価値創造に貢献してもらい、すべてのステークホルダーにとってプラスになるためにどうすればよいか、日本全体で考えていくことが必要な時期に来ているとわたくしは考える。

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